「経営者意識」が可能性を広げる
だれもが持つべき行動規範

日々さまざまな場面で耳にする「経営者意識」とは何なのか。どうしたら身につくのか、身につけたことでどう変わるのか。ユニット制を導入し経営体制を刷新したオハヨー乳業専務取締役秋山隆、そしてグループの未来を担っていく世代のリンク&リンケージ配車課課長の菱川正弘に話を聞いた。2人の「経営者意識」とは。

自分のシナリオを生きる
オハヨー乳業 専務取締役 秋山 隆
小学生のころから「味を薄めたような商品や、着色料、香料がふんだんに使われた大手の商品ばかりが棚に陳列されている状態に疑問を感じていた」という秋山。親が買ってきてくれた、シンプルな中身でおいしい、なおかつ“大手ではない”オハヨー乳業の商品に感動した体験から、2000年に入社。営業、企画、社長室などを経て現在に至る。
秋山が考える「経営者意識」とは「未来を自らの手で選び取る覚悟をもつこと」。人は、死にざまは選べないが、生きざまは選ぶことができる。人間は人生の中で何度も選択を迫られるが、その未来を他人に託すこともできてしまう。しかし、人生の主人公は自分である。強みも弱みも全て受け入れて終わりのない試行錯誤に身を投じる覚悟と、変化を恐れずに可能性を見出す勇気を持つことで、「自立して自分の未来を創り、過去の自分に感謝できるような人生を歩み、より良い未来を構築したい」と言う。

このような意識を持つようになったのは、営業時代に担当取引先を自分でどういう状態にしたいと考え、予算を立て、実行するよりも、前年比を基準に考えて一喜一憂することに疑問を抱いたことがきっかけだ。テレビ番組をきっかけとしたブームで一時的に売り上げが伸びたときでさえも翌年同月には前年比100%以上の目標を設定していた。「果たしてそれで会社全体が良くなっていくのだろうか。営業活動にも無理が生じるし、製造や物流も人員の調整は短期間では難しく、生産量が激しく増減することが負担になっているのではないか。単純に前年踏襲するのではなく、極端な増減がない状態でトータルとして上回る方がいいのではないか」。一時的な売り上げに左右されず、長期的な視野をもって「ともに働く社員、後続の社員にとっても良いことを基準に自ら考え選択する」ことが重要という考えに行き着いた。
自分の未来を創ることのできる人が育つ環境を構築するために「気付きを与える」ことに重点を置く。初めから答えを明示するのではなく、自分なりの答えを考えるように導き、行動させる方が人は育つ。課題に対する正解など存在せず「自分なりに考えたものこそが答えである」というのが秋山の人生の哲学なのだ。

“会社対会社”ではなく“人対人”
リンク&リンケージ 配車課 課長 菱川 正弘
前職の製造業勤務の時代に「配車ミスや天候不良で原材料が届かず、モノがそもそも作れない経験が何度かあり、原材料や資材があって初めて成り立つ環境だと気付いた」という菱川。この経験から物流に興味を持ち、小さいころから親しんだオハヨー牛乳を物流で支えるリンク&リンケージ(旧フジ物流)へ入社。現在まで10年間配車に携わっている。
物流の世界へ足を踏み入れた際、元請けの配車担当として運送会社とやり取りをする中で、業務を発注する優越的地位にあることから、「A社に断られてもB社、C社に頼めばいい」というスタンスで仕事に取り組んでいたため、運送会社からの信頼を得られず、運送会社の数が減少したことも相まって、車がなかなか手配できなくなるという課題に直面した。
しかしその後、配車課長として接点を持つことになった取引先の社長との出会いをきっかけに、悩みの原因が自身にあることに気付いた。「乗務員は家族だ」が口癖の彼は、乗務員の働く姿や課題に悩む様子をつぶさに見ていた。乗務員がミスをしても頭ごなしに叱責するようなことはせず、取引先との間にトラブルが生じても必ず従業員を守る意識を大切にしていた。

彼の影響により菱川は、これまでの自分が「人」を見ずに業務に取り組んでいたことに気付き、それ以降は、「会社対会社と思えるようなことでも突き詰めると作業をするのは人。業務だけを見て人を見ることができず、目先の利益だけを追い求めていては、関係が長続きしないし、より良いものは生まれない」と意識するようになり、「自分にとって『経営者意識』とは『人を見ること』」という考えが明確になった。
菱川は今、部下に対して、運んでくれる人のことを想い、感謝することの重要性を日々伝え続ける。「人がどういう想いを持ち、どう考えているのかを気にかけ、常に『人対人』のやり取りであることを意識する」という自身の信念が仲間たちに広がりつつあることに、手ごたえを感じ始めている。
意志をもって未来を切り拓く
2人の取材を通じて、「経営者意識」とは授業や研修で身につくものではなく、それぞれの経験や環境といった日常からの影響が大きいことに加え、年齢や役職などにかかわりなく1人ひとりが持つべき心構え、行動規範のようなものであると感じた。自分自身の中でそのことを確立するためには、自分の役割を自覚し、周囲の人々がどんな状況にあるか、どういう想いを抱いているかに興味、関心を持つことが不可欠だと思う。
「経営者意識」というと難しく聞こえるかもしれないが、だれもが自分の人生を経営しているとも言える。自分の仕事の可能性を広げるために、そして人生の可能性を広げるために、自分の意志を込めた「経営者意識」は、だれにとっても必要なものだと言えるのではないか。