インタビュー
哲学を「ツール」として生かせ
安定志向捨てルールメーカーに

日本カバヤ・オハヨーホールディングス
社外取締役 大橋一陽

日本カバヤ・オハヨーホールディングス社外取締役の大橋一陽は哲学者、全日本ヨガ連盟代表理事など多彩な「顔」を持つ国際企業人でもある。日本カバヤ・オハヨーホールディングスグループにとって縁深い哲学やヨガとの出会いなど、「人間・大橋一陽」に迫った。

大橋と哲学の出会いは高校時代までさかのぼる。通っていた高校は神奈川県鎌倉市内で、近くには禅寺の建長寺や円覚寺があり、そこで行われていた坐禅に興味を持った。もともと自分の身体と精神の能力を高めたいという想いがあったことに加え、ちょうどそのころ叔父や親友の死を経験したことから「なんで人は生きているのだろう」「死ぬとはどういうことなのか」と、命に関する思索を始めるようになったという。

 

禅に関する本などを読みふけり勉強したものの、死に対する答えをすぐには見つけることができず、いったん哲学から離れ、国連職員を目指して東京大学を受験したが失敗。ヒエラルキーの中で生きることがつらくなっていた浪人中、哲学者キルケゴールの著書「死に至る病」を読んだ。読者をキリスト教信仰へと導く内容で、「小難しいけれど、みんな一生懸命突き詰める作業をやっている」と感じ、いったん脇に置いていた「“なんで”を繰り返していく作業=哲学をやってみよう」と考えるようになり、アメリカの大学の哲学部に進学した。

価値観をすべて捨て去る

思想の東西比較研究を希望し、あえて日本人の少ないメリーランド州内の大学に進学したのだが、周囲の声は「日本人が英語で哲学を学べるわけがない。学位だけ取って日本へ帰れ」。かなり悩みながら大学は4年で卒業できたが、大学院に進むとさらに大変で「アメリカは人種も文化も多種多様な国で、自分の文化を押し付けても意味がない。この国で哲学者として生きていくため、今まで信じていた価値観をすべて捨て去る」と覚悟を決めた。

日本人コミュニティー以外と積極的に交流し、意識を変えるにはそれほど時間はかからなかった。順調に博士課程に進み勉学に励んでいたのだが、そこへ担当のベルギー人教授から「教授になれるのはトップ3%だけ。フランス語もドイツ語も話せない君には無理」と帰国を勧められた。「高校時代の記憶は一切なく、同窓会に行くのも嫌」というほど、意識の上では日本人であることをやめ、哲学の道を究めようとした大橋が経験する2度目の大きな挫折だった。

ハワイの大学という選択肢もあったものの、恋人とも別れ帰国した大橋は、英会話学校の生徒勧誘のフルコミッション(完全歩合制)の仕事に就いた。「“とりあえず何でもやってみよう”程度の気持ちだったが、勉強すればするほど人の心は操れる」ことに気付き、営業成績は面白いように伸びた。部下のために汎用性をもたせたマニュアルを作れば、ほとんどの部下は成績が向上。「優秀な営業マンに対し『〇〇さんだから…』ととらえてしまいがちだが、それは間違い。自分のやり方を標準化まで帰納する、という作業をしたことがないためにそのような発想になってしまう。信頼関係を基に相手のことを真剣に考えさえすれば、だれでも成績は残せる」と確信した。

哲学のビジネス活用を実践

フルコミッションの仕事に携わった2年間は、大橋にとって「ビジネスの世界に哲学を取り入れるとこんなに可能性が広がる」ということを実践できた期間だった。ノウハウを自分だけのものにするのではなく、一般化してみんなでシェアすることで効果は何倍にもなり、そのためのツールとして哲学を使う―。これこそが、日本カバヤ・オハヨーホールディングスグループが目指すところであろうし、「皆さんは『私の約束』のベースになったアリストテレスが書いた幸福論は学んだが、ツールとして哲学をどう使うのか、についてはまだ学べていない。次の段階では、ぜひこれを共通言語にしていきたい」と強調する。

哲学と並ぶ大橋の「顔」が、全日本ヨガ連盟代表理事とミス・ワールドジャパン理事長としての活動。自分で会社を立ち上げたころ、ある会合で駐日インド大使だったアフターブ・セット氏(現・全日本ヨガ連盟会長)と出会ったのをきっかけに、インド人材の派遣事業や、優秀な人材を日本に連れてくるためインド工科大学での日本語講座運営など、インド関連のビジネスを拡大。大使夫人を通じ、ヨガとのかかわりもできた。

来日したインドのモディ首相と

日本ではオウム真理教の事件の影響もあり、インドヨガに対するイメージはネガティブなものだったが、2014年にモディ首相が登場すると潮目が変わり、「世界一有名な文化であるヨガがインド発祥であることを世界に知らしめよう」と国連での働き掛けや、インドヨガの「一般化」のため検定試験を導入。大橋もすぐさま手を挙げ、インド以外では唯一の検定試験実施団体となり今日に至る。日本のヨガ人口は500万人といわれ、1つのマーケットとしてとらえればこれほどのブルーオーシャンは滅多にない。

大橋が理想として掲げるのは「自由」&「人と愛に満ちあふれた生活をしたい」ということ。アメリカに留学し、それまでの人生で自分が築き上げてきたコンセンサスは絶対的なモノではないことに気付き、「自由になるために大切なのは自分でルールを決められるかどうか」という意識が強くなった。ヨガの検定試験しかり、イギリスでミス・ワールドの日本での運営権を獲得し、毎年日本の“美”の基準を決めていることもまたしかりだ。

ミスワールド・ジャパンを運営

「一般化」を巡る競争を勝ち抜く

日本カバヤ・オハヨーホールディングスグループには「ルールに従う側の人間が多く、自分でルールをつくれることにだれも気付いていない」と感じており、その原因として「正常性バイアスと変化を望まない傾向」を挙げる。世界ではあらゆる分野で「一般化」を巡るし烈な争いが繰り広げられており現状維持では生き残りは難しい時代が到来している。

大橋はグループ従業員にこう呼び掛ける。「このグループは、たくさんの素晴らしい財産(商品、サービス、人等)を持っている。慣例や常識にとらわれずにそれらを思う存分使って、自らビジネスをつくるという意識を持ってもらいたい。それが会社を発展させ、社会を豊かにし、皆さんの幸せにつながるはず」――。

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